FDE(Forward Deployed Engineer)とは何をするエンジニアか

FDEは、現場に入り、業務の把握から設計・開発・定着まで担うエンジニアです。Forward Deployedは英語で「前方に配置された」という意味で、ツールを使う人のいる場所まで開発者が出向いて作る働き方のことです。

この職種名は、米国のソフトウェア会社Palantirが、顧客のもとに出て開発するエンジニアの呼び名として使ってきたものとされています。同社が2020年に提出した上場申請書類にも、forward-deployed engineersが、顧客が新しい使い道を見つけるのを手伝うと書かれています。弊社では、この進め方を「現場開発」と呼んでいます。

出典: Palantir Technologies Inc. Form S-1(2020年8月25日提出・米国証券取引委員会)

助言だけをして帰るのでもなく、言われたものをそのまま作って納めるのでもありません。何を作るかを決めるところから担当者と一緒に考え、動くものを作り、使われるまで直します。決めることと作ることの両方をやる仕事だと思っていただければ、おおむね合っています。要件の書類を受け取って見積を出し、できたものを納める進め方と比べると、何を作るかを決める作業と作る作業を同じ日に進めるので、途中で方針を変えやすくなります。

仕事の中身は、実際の動きで説明したほうが分かりやすいです。週1日、担当者のいるオフィスに伺います。資料が届いてから物件概要書を出すまでの作業を見せてもらい、その場で担当者と一緒に画面を確かめます。違っていたところは、持ち帰らずにその日のうちに直します。

動かない部分が残っているからといって、お見せするのを後回しにはしません。きれいに仕上げてから見せていると、どこが違うのかが分かるのは次の訪問の日になります。読み取った項目が一覧に並ぶところまでできた日は、仕上げる前にその画面を開いて、担当者に「この並びで探せますか」「足りない項目はありませんか」と聞いてみます。

作って渡した時点で終わりにはしません。本番で動き始めてから、使われていない画面や、手作業に戻っている工程を探します。画面を開いた回数を見るだけでは分からないので、訪問の日にもう一度、どの手順で作業しているかと、どこを手で直しているかを見せてもらいます。そこを直すところまでを現場開発に含めています。

担当者から出る指摘は、使ってみたあとのほうが具体的です。「この項目は普段見ていない」「この並びでは探せない」と言われることがあります。打ち合わせの席では、そこまでの話は出てきません。

不動産会社の現場で、FDEは何を作るのか

最初に手をつけるのは、たいてい、届いた販売図面や物件概要書を自社の書式に作り直す作業です。手で書き写している作業が多く、担当者によって仕上がりも変わります。

元付の会社からPDFの販売図面がメールで届きます。売買担当が確認するのは、所在地・価格・面積・用途地域・接道・利回りです。それを一つずつ自社の書式のExcelに書き写し、写真を切り出し、地図を貼り、帯を自社のものに替えます。

元付の会社が作った図面は項目の数も並びも会社ごとに違うので、自社の書式に移すときには、どの欄のどの数字を見るのかを一枚ごとに確かめることになります。問い合わせの多い日は、この作業だけで夕方までかかります。

弊社が作っているものの一つが、物件概要書を作るツールです。届いた資料を読み取り、写真の切り出しや住所からの地図作成まで自動で行い、自社の帯・書式で概要書を出します。最後に担当者が内容を確認して微調整します。読み取れなかった項目は空欄のまま残し、推測で埋めません。

読み取った数字をそのまま出すこともしません。利回りと価格、坪と㎡の関係を突き合わせ、桁の誤りや月額・年額の取り違えがあれば警告を出します。住所から場所を特定できないときは、誤った地図を出さないように地図を作りません。

概要書を作り終えても、同じ項目をもう一度入力する作業が残ります。自社サイト、ポータル、社内の管理台帳に、所在地と価格と面積を入れ直している会社が多いです。自社サイトに載せる文章と、ポータルに入れる項目と、管理台帳の列の並びがそれぞれ違うので、同じ物件を順に入れ直すうちに、価格だけが古いままになることがあります。同じ数字を何度も書き写していると、打ち間違いも出てきます。

届いた資料を一か所にまとめて保存し、所在地・価格・用途などの項目でまとめて検索できるようにもします。検索の項目や並び順を決めるのは、担当者が普段どう探しているかを見たあとです。資料の登録は、PDFをアップロードするか、iPhoneの共有メニューから送るだけで終わり、登録されるとSlackやLINEに通知が届きます。

ここまでが、開発事例として挙げている範囲です。このほかに、事業者ポータル、買いニーズとのマッチング、転載承諾の記録を付けた帯替え、媒体や社内システムへの転記、反響メールの一次整理も開発できます。どれから作るかは、その会社でいちばん時間を取られている作業から決めます。それぞれの中身は開発事例(一例)をご覧ください。

SaaS・受託開発・コンサル・客先に人員を出す契約(SES)・現場開発の違い

形の似た契約と並べると、違いがはっきりします。比べるのは、作る場所、何を作るかを決める人、成果物、どこまで責任を持つか、料金の形、不動産の商習慣への対応の6つです。

作る場所何を作るか決める成果物どこまで責任を持つか料金の形不動産の商習慣
SaaSベンダー側ベンダー既製の機能機能の提供月額(機能別)汎用
受託開発ベンダー側自社(要件定義で)仕様どおりのシステム納品見積(要件次第)要件に含めれば対応
コンサル・AI顧問作らない(助言)自社(助言を受けて)報告書・助言提言顧問料助言のみ
客先に人員を出す契約(SES)自社(指示どおり)自社指示した作業労働時間人月指示次第
現場開発(FDE)自社のオフィス(週1日)担当者と一緒に、現場で現場で使われるツール現場で使われ、定着するまで月額固定理解してから作る

どれが優れているかという話ではありません。業務ごとに向くものが違います。

会社が変わっても手順が同じ業務は、SaaSを使ったほうが安く済みます。会計や契約書の雛形のように、既製品の画面に自社の手順を合わせられる業務です。わざわざ作らないほうが、早く終わります。どの会社でも同じ手順で済む業務に自社用の画面を作ると、使い始めてからの手直しも自社で抱えることになるので、既製品に合わせられるなら、そのほうが長く使えます。

作るものが決まっていて、仕様を文書に書ける業務は受託開発が向きます。画面の項目と処理の順番を先に決められるなら、開発者が現場にいる必要はありません。客先に人員を出す契約(SES)も、何を作るかを自社で決めて指示を出せる場合に合います。何を作るかの設計から任せたい場合には向きません。

コンサルやAI顧問は、何を作るかを決める相談相手です。作る人は別に用意することになるので、社内か外注で作れる会社に向きます。

6つのうち、不動産会社が後から困るのは商習慣への対応です。元付の会社から届いた販売図面を客付として配るとき、担当者は帯を自社のものに替え、転載の承諾をもらった日を控えておきます。この一手間を要件の書類に書き忘れると、できあがった画面には帯を差し替える欄はあっても、承諾を記録する欄がありません。

元付と客付で資料の扱いが変わることや、会社ごとに概要書の書式が違うことも、先に伝えていなければ汎用の作りになります。動かし始めてから気づくと、画面も手順も作り直しになります。現場開発では、この商習慣を聞き取ってから設計に入ります。

現場開発が向くのは、担当者ごとに書式や手順が違い、何を作るべきかが社内でも言葉になっていない業務です。売買の資料まわりは、たいていこれに当てはまります。どれを選ぶかを決めるときは、作りたい機能の数を数えるより、その業務の手順が社内で言葉になっているかどうかを先に見たほうが、後の手戻りが少なくなります。

現場に入ると分かること

現場に入って最初に分かるのは、資料がどこから来てどこへ行くかです。元付の会社から届く資料と、客付として受け取る資料では、手を入れる範囲が違います。帯を替えて配る資料と、社内でだけ使う資料も分かれています。打ち合わせの席では、この区別まで話に出ません。

物件概要書の書式は会社ごとに違います。項目の並び、ロゴの位置、帯の色、㎡と坪のどちらを先に書くか。同じ「概要書」という言葉で話していても、思い浮かべている紙が違うことがあります。どの紙のことなのかは、実物を見せてもらうまで分かりません。

社内で言葉になっていない手順も、作業を見ていると出てきます。届いた資料をどの順で見るか。どの項目を自社の書式に移し、どの項目は移さないか。どこで上司の確認を挟むか。どれも手順書には書かれていませんし、担当者も聞かれるまで説明しません。

要件定義の打ち合わせでは、こうした手順が話に出てきません。漏れたまま作ると、使い始めた担当者が「結局、手で直したほうが早い」と感じて、元の手作業に戻ります。よくある話です。隣で作業を見ながら開発していれば、漏れていた手順をその日に見つけて直せます。

「物件情報」という一語も、人によって指すものが違うことが多いです。売買担当は届いた販売図面を指しているのに、事務担当は社内のデータベースに入っている項目を指している、ということもあります。どちらの意味で画面を作るかで、入れる項目も検索の並びも変わります。言葉だけで打ち合わせをしていると、このずれには気づけません。

もう一つ会社ごとに違うのが、誰が最後に内容を確定するかです。売買担当がそのまま出す会社もあれば、課長が目を通してから出す会社もあります。上司の確認を挟む工程は手順書にも組織図にも出てこないので、作業を見せてもらいながら「この欄は誰が見ますか」「ここで止めるのは誰ですか」と一つずつ聞いて、画面のどこに確認の欄を置くかを決めます。

訪問すると、印刷した販売図面が机の上に積まれていることがあります。どれが最新かを付箋で見分けている会社も少なくありません。そういう紙の束は、要件を書いた書類には出てきません。

どこから始めるか

始めるのは、いま手で書き写している作業です。業務のやり方そのものを変える話からは手をつけません。どの進め方が向くかは、自社の状況によって変わります。

自社の状況向く進め方
他社と手順が同じで、既製品の画面に合わせられる場合SaaSを探す
作るものが決まっていて、仕様を文書に書ける場合受託開発に出す
担当者ごとに書式や手順が違い、言葉になっていない場合現場開発で、作業を見ながら作る
いまのSaaSは使い続けたいが、その前後に手作業が残っている場合残った手作業だけを現場開発の対象にする

線を引いているところもあります。重要事項説明の内容を確定するのは宅地建物取引士で、AIは下書きの補助にとどめます。その確認の手順を、設定で外せる作りにはしません。

レインズの画面を機械的に読み取ることもしません。処理するのはPDFやメールで受け取った資料だけです。帯替えは、転載承諾を記録してから行う手順にします。

進め方の最初は現場診断です。現場診断は1日・無料で、初回から自社のオフィスに伺います。午前に資料の流れと担当者の1日の作業を見せていただき、午後は自社の資料でAIの読み取りから概要書の出力までをその場でお見せします。夕方にお渡しするのは、自動化できそうな作業と見積です。

そのあとの現場開発は、月額50万円(税抜)の固定料金です。週1日の訪問とリモートの作業を合わせて進めます。期間は、課題を見つけるところから解決するところまでを含めて、最低6ヶ月としています。本番で動き始めてからも、同じ月額で改善の開発と運用の相談を続けます。各段階の中身は進め方、条件は料金をご覧ください。

法令に関わる作業は、どこで人が確認するかを決めてから作ります。宅地建物取引業法の条文はe-Gov法令検索で読めます。個人データをAIに入力するときは、個人情報保護委員会の注意喚起を参照しています。公表されているのは生成AIサービスの利用に関する注意喚起等についてです。

条文の解釈をこちらで決めることはせず、法令上の扱いは各社の方針に合わせて設計します。

作るものを決めるより、作らないものを決めるほうに時間がかかります。それを会議室で決めずに、担当者の机のそばで決めています。

よくあるご質問

物件や顧客のデータはどこに置かれますか

物件情報と顧客情報は分けて扱い、本人の同意のない個人データはAIに入力しません。データの保管場所と、AIの学習に使わせない設定については、現場診断の際に実際の構成をお見せしながらご説明します。

重要事項説明もAIに作ってもらえますか

いいえ。内容を確定するのは宅地建物取引士です。AIは下書きの補助にとどめ、宅地建物取引士が確認する手順を外せない作りにします。

社内にシステムに詳しい人がいないのですが、進みますか

進みます。訪問の日に、担当者と一緒に使いながら作ります。社内で仕様を書く役の方を置いていただく必要はありません。

いま使っているSaaSは解約することになりますか

いいえ、そのまま使い続けていただけます。現場開発の対象にするのは、そのSaaSの前後に残っている手作業です。届いた資料の読み取り、別の画面への転記、概要書の作り直しが主な対象になります。